数学類では、2年次と3年次に「数学外書輪講」という授業があって、外国語(ほとんどの場合、英語)で書かれた数学の専門書の読み方を指導します。少なくとも数学を記述する英語の文章は難しくありません。それどころか、文法が単純で、関係詞節、分子構文等を用いた立体的構造を持ち得る英文は、論理的な表現により適しています(数学にも情緒的な側面があって、それ表現するには和文に到底適いませんが)。しかし実際のところ、洋書の専門書を読むことに対する心理的抵抗は大きく、それを克服する上でも、この「数学外書輪講」は役立っていると自負しております。また、数学の論文はほとんどが英語で書かれているため、数学研究には英語が欠かせません。数学類3年次後期の「卒業予備研究」、4年次の「卒業研究」は、セミナー形式で行われる、数学研究の第1歩です。同じ形式で行われる「数学外書輪講」は、これらに向けてのトレーニングとしても有効に働いております。
以下、上の3つの授業で取り上げられたものを中心に、推薦したい洋書をご紹介いたします。
初級編(大学1年生から読める)
O. Hijab, Introduction to calculus and classical analysis, 4th Edition, Springer Undergraduate Texts in Math., 2016.
1年生から2年生向き。微積分の授業の副読本としておすすめ。ゼータ関数等、数論への応用を含む。
M. Aigner, G. M. Ziegler, Proofs from the book, 5th edition, Springer, 2014.
1年生から4年生向き。数学における美しい証明を集めた貴重な本。目次を見て興味を持ったところを読むのがおすすめ。予備知識なしに読めるところもある。
中級編(大学2年生以上向け)
J. Schapira, Volterra adventures, AMS Student Mathematical Library, 2018.
2年生から3年生向き。積分方程式を通して微積分と線型代数から関数解析への橋渡しをする本。一般論で見通し良く進めるところと、Titchmarshの合成積定理のような難しいが面白い定理がバランス良く配置。一様収束や対角化が分かっていれば読める。
D. Williams, Probability with Martingales, Cambridge Univ. Press, 1991.
2年生から4年生向き。マルチンゲールという重要な概念を軸にして現代確率論を学ぶ本。ルベーグ積分から手際よく書かれているので、関数空間を距離空間として見るといった抽象的思考に慣れてさえいれば読み始められる。
J.-P. Serre, A course in arithmetic, Springer Graduate Texts in Math. Vol. 7, 1997:原著(仏語)Cours d'arithmétique;邦訳 彌永健一「数論講義」岩波書店.
3年生から大学院生向き。数論入門の名著。代数的方法と解析的方法の両方がバランスよく学べる。
B. Hassett, Introduction to algebraic geometry, Cambridge Univ. Press, 2012.
3年生から大学院初年級向き。代数幾何学をはじめて学ぶ方向き。丁寧に書かれ、よい具体例が多数挙げられている。
M. F. Atiyah, I. G. Macdonald, Introduction to commutative algebra, Addison-Weissley, 1969;邦訳 新妻弘「Atiyah-MacDonald 可換代数入門」共立出版.
3年生から大学院生初年級向き。可換環論入門の圧倒的名著。慌てず騒がず、整然と議論が進む。碩学とはかくあるか。数学類3年生で、この本で自主ゼミをしているグループをいくつか見た。
I. H. Madsen, J. Tornehave, From calculus to cohomology: de Rham cohomology and characteristic classes, Cambridge Univ. Press, 1997.
3年生から大学院生向き。トポロジーと多様体を融合させた好著。通読すれば、低次元多様体論、ゲージ理論といった、現代幾何学の1つのメインストリームへ自然と導かれる。
上級編(大学4年生以上向け)
J.-P. Serre, Linear representations of finite groups, Springer Graduate Texts in Math. Vol. 42, 1997:原著(仏語)Représentations linéaires des groupes finis;邦訳 岩堀・横沼「有限群の線型表現」岩波書店.
4年生から大学院生向き。有限群(より一般にコンパクト群も含む)の線型表現に関する本格的入門書。最良のフォーミュレーションを選ぶ、Serreのエレガンスが堪能できる。
S. Lang, Algebra, revised 3rd edition, Springer Graduate Texts in Math. Vol. 211, 2002.
4年生から大学院生向き。代数学の基礎を網羅する名著。線形代数の延長として、Galois理論、半単純環、有限群の表現を論じ、スーパー代数、ホモロジー代数に至る美しい構成。
M. Spivak, A comprehensive introduction to differential geometry, Vols. 1--5, Publish or Perish, 1999-2005.
4年生から大学院生向き。微分幾何学の本格的教科書。著者の見事な解説は活き活きとしていて、まるで授業を受けているかのよう。通読せずとも、必要なところのみ読んで為になる。
G. B. Folland, Fourier analysis and its applications, American Mathematical Society, 1992.
4年生から大学院生向き。フーリエ解析の入門書。導入部分は極めて具体的で、その部分だけでも読む価値あり。微分方程式の応用にまで至る内容は本格的。