幾何学分野

図形の性質は古くから人々を魅了してきました.皆さんの中にも,三角形や円の思いがけない性質を知った時・証明できた時の喜びを感じたことのある方が多いのではないでしょうか.幾何学は図形を研究する学問として長い歴史を持ち,他の数学分野とはもちろんのこと,自然科学や工学にも影響を与え・与えられながら発展してきました.今日では,視覚では捉えられない抽象的な図形をも取り扱う方法論を備えて,その可能性をますます拡げています.

大学で学ぶ幾何学は,図形のつながり方について調べる位相幾何学と,図形の曲がり方について調べる微分幾何学とに大別されます.曲面を例に説明しましょう.位相幾何学では,オイラー数と呼ばれる不変量を用いて曲面のつながり方を調べます.オイラー数は,曲面を多面体として表わし,その頂点の数,辺の数,面の数を数え上げて計算することができます.微分幾何学においては,ガウス曲率と呼ばれる曲面上の関数を用いて,曲面の曲がり方を把握します.ガウス曲率は,曲面をパラメータ表示し,パラメータ関数の適切な意味での2階導関数によって計算することができます.このようにオイラー数とガウス曲率は異なる観点によって定まるものですが,ガウス・ボンネの定理によれば,「閉じた曲面上でガウス曲率を積分して得られる値は,その曲面のオイラー数の2π倍と等しい」のです.このように,位相幾何学と微分幾何学の間には深い関係があります.

数学類では,現代幾何学の基礎全般を学ぶことができます.位相幾何学の講義では,位相空間論の初歩,ホモロジー論など代数的トポロジーの初歩、そして幾何学的トポロジーの初歩が学べます.微分幾何学の講義では,曲面論や多様体論,多様体の微分幾何学の初歩などが学べます.演習においては理解を深めるための問題演習を通して計算方法や論証方法を身につけ,種々の空間概念を把握することができます.卒業研究では,セミナー形式で教員の指導を受けながら,幾何学の様々な話題について詳しく学ぶことができます.

大学院では現代幾何学の高度な理論について学び専門性を高め, またセミナーなどを通じて,各自が興味を持つ対象について研究することができます.私たちの幾何学グループでは,以下に概説する研究が行われています.

位相幾何学グループでは,低次元位相幾何学(3・4次元多様体論や結び目理論など), 力学系理論とエルゴード理論, 一般位相幾何学を中心に研究が行われています.

  • 低次元位相幾何学(石井敦丹下基生)は,主に3・4次元の多様体とその中の結び目やハンドル体などを研究します.組み合わせ的あるいは微分位相幾何学的な種々の不変量と幾何学的な考察を積み重ねて,多様体と結び目の性質を研究する分野です.
  • 力学系理論とエルゴード理論(平山至大)は, 古典力学と統計力学に起源を持ち確率論・整数論など様々な数学と関わっています. ここでは多様体上の可微分力学系のエルゴード理論を中心に位相・測度論的力学系の研究が行われています.
  • 一般位相幾何学(川村一宏)は,野性的空間や関数空間を含む抽象的な空間を研究する分野です. 

微分幾何学グループでは,部分多様体論(曲面論を含む)と大域的リーマン幾何学(複素幾何・幾何解析・幾何学的フローの理論を含む)を中心に研究が行われています.

  • 部分多様体論(田崎博之・相山玲子)は,等質空間や対称空間の理論,調和写像の理論などに基づいて,空間内の曲面や部分多様体の性質を幾何学的,解析的,あるいは表現論的に研究する分野です.
  • リーマン幾何学(小野肇・永野幸一)は,様々な多様体上のリーマン計量の存在とその局所・大域的性質, またリーマン多様体と類似の構造を持つ距離空間を研究対象とします.リーマン多様体・複素多様体とそれらの類似の空間の様々な構造を, 計量的,位相的あるいは解析的に研究する分野です.
  •  幾何学的フロー理論(山本光)では時間発展する幾何構造や部分多様体を研究します.十分長い時間が経てばフローが特殊な幾何構造(や部分多様体)に収束するかどうかや,収束しない場合には何が起こっているのかを幾何解析を用いて研究する分野です.

幾何学グループでは,このように広い分野の研究をカバーしています. 各種のセミナー,講義,数学及び数理科学に関する研究集会などを通じて幅広い数学を学ぶことが出来ます.前期課程修了時においては日本数学会などの一般講演を目標に,後期課程修了時においては国内外での研究集会における研究発表および国際的な学会誌や学術誌に掲載される水準の論文発表を具体的な目標にしています.数学学位プログラムおよび幾何学グループでは,次世代の数学を担い,また数学を通して社会に貢献する人材の育成に努めています.