及川一誠(情報)

私の専門分野は偏微分方程式の数値解析です.熱伝導や流体運動などの身近な現象はじめ,多くの物理現象は偏微分方程式で記述されますが,それらの厳密解は一般には求めることができません.解の具体的な様子を知るためには何らかの近似手法が必要となります.現在,近似手法として主流なのは数値計算で,計算機の性能向上とともに工学や産業分野などの様々な場面で使われるようになりました.数値解析とはそういった数値計算手法を数学的に研究する学問分野です.偏微分方程式の数値計算法には様々なものがありますが,私は有限要素法と呼ばれる手法を中心に研究をしています.有限要素法とは,対象となる領域を三角形のような単純な形状(要素)に分割し,区分多項式などの近似関数を用いて近似解を求める方法です.

有限要素法に興味をもつようなったきっかけは,大学の講義でした.有限要素法の数値計算がレポート課題として出題されたので,自分の手でプログラムを作成し,近似解のグラフをディスプレイに出力しました.近似解と厳密解のグラフはほとんど重なって描画され,予想していたよりも精度が高くて驚きました.理論的には近似解が厳密解に収束することはすでに知っていましたが,実際に目の当たりにしてみると印象が全然違いました.数値解析では実際に自分で計算してみることが大切であるという認識は今でも変わりません.その後,色々と勉強を進めていくうちに有限要素法を含む数値計算手法は思っていたよりも万能でなく,上手くいかないケースも少なからずあることを知ることとなります.そういった欠点を自分が解決したいと思うようになり,大学院に進学することにしました.

大学院に進学後は,セミナーで不連続Galerkin法に関するサーベイ論文を読み,現在ではHybridizable Discontinuous Galerkin (HDG) 法と呼ばれる手法のパイオニア的な研究を開始しました.当時は知る由もありませんでしたが,似たような手法の研究を行っていた人はそれなりにいたようです.当時,不連続Galerkin法の研究はかなり盛んに行われていたので,今振り返ってみると単なる偶然ではなく,ある意味必然であったようにも思います.

その後,HDG法の研究は急速に進展しました.研究の世界ではよくあることですが,自分の思いつくことは誰かがすでに思いついている,あるいは同時期に独立して新手法を発見するということを身をもって体験することとなりました.いくつもの幸運が重なり,自分の研究結果が論文として受理されたこともありましたが,他の研究者に先を越されてしまったことの方が多かったです.それでも,自分の研究対象が周囲に認知され,ひとつの完成を迎えたことに今では達成感を感じます.

こうして振り返ってみると,有限要素法やHDG法といった自分の興味と適性のあった研究対象に出会えたことターニングポイントでした.これから数学の道を志す皆さんも,色んな分野の数学(特に数値解析)に触れてみて,自分にあった数学のテーマを,ひとつと限らず,探してみてはいかがでしょうか.