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過去の体験学習

年度 2022年度
日付 8月4日
概要

 「平面にランダムに点をばらまけるか?」 福島 竜輝 先生

 

平面上にランダムに点をばらまきたいと思います。何となく下の図のような結果になることが想像できると思います。

しかしこれをどうやって実現するかは、意外に難しい問題です。まず領域を上の図の通りに正方形に限ったとして、「どの特定の点を見ても、そこに点が落ちる確率は 0 だから、最初の点をどこに取ってよいかわからない」、「仮に最初の点の取り方がわかって、そのあとも同じ手続きを繰り返せるとしても、いくつ点を置けばよいのかわからない」、といった問題があります。さらに無限に広がる平面に点をばらまこうと思うと、最初の点を置く場所の悩みはさらに大きくなります。仮に正方形の場合が解決したとすれ ば、平面を正方形のタイルに分割して、それぞれの中にランダムに点をばらまくという方法が考えられますが、「タイルの一辺を 1 にしたときと 2 にしたときで、同じ結果が得られるのか? 蜂の巣のように正六角形に分割してはいけないのか?」など心配の種は尽きません。

この体験学習では、上の問題について一つの自然な方法を提案し、それで上の心 配事が解決しているかを考えてみることにします。またその過程でネイピア数(またはオイラー数)と呼ばれる面白い数が自然に登場するので、ときどき脱線しながらその数に関してもいろいろな性質を調べてみたいと思います。

プログラム
8月4日(木)Zoomにてオンライン開催

9:30〜  入室可能
10:00〜10:05  開会宣言、講師・TAの紹介など
10:05〜11:30 講義と演習「平面にランダムに点をばらまけるか?」講師: 福島 竜輝
11:30〜13:30 お昼休み(各自で昼食をとって下さい。)
13:30〜15:00 講義と演習「平面にランダムに点をばらまけるか?」講師: 福島 竜輝
15:05〜15:15 学類長(佐垣先生)のお話
15:15〜15:45 アンケート集計結果発表と回答・質疑応答
15:45〜16:40頃 懇談会

年度 2019年度
日付 2019年8月9日(金)
概要

「オイラーの公式とトポロジー」    丹下 基生 先生


 平面上にいくつかの頂点を描き、その点をいくつかの交わらない辺でつないで得られる図形を描きます。下の絵はその一例です。このとき平面は幾つかの領域に分割されます。



 1750年、オイラーはゴールドバッハに宛てた手紙の中で次のように書いています。
 「上のような図形を描いて、平面をどんなふうに分割しても、頂点、辺、領域の数をそれぞれV, E, Fとしたとき、それらの間には、

$$V - E + F = 2$$


なる美しい関係がある!」
 オイラーの手紙のあと、この公式は正しいことが証明され、今ではオイラーの公式と言われています。この不思議な関係式を詳しく研究する中で、トポロジーという分野(やわらかい幾何学)が発展してきました。
 この体験学習では、まずは多面体などの例を通してオイラーの発見を追体験してもらいます。また、どうしてこの式が平面において成り立つのか、その仕組みを一緒に考えて行きたいと思います。また、体験学習の後半では、平面ではない曲面に図形を描いたとき、オイラーの公式の左辺V-E+Fの変化を観察し、右辺の2の意味に迫ります。一体どのような値に変化するでしょうか?この体験学習を通して、オイラーの発見は些細な偶然ではなく、現代まで発展してきたトポロジーの基礎となる考え方であり、文字通り、大発見であるということが分かるでしょう。


プログラム
8月9日(金)第1エリア1E303

9:30     受付開始
10:00~11:30 講義と演習  「オイラーの公式とトポロジー」 講師:丹下 基生 助教
11:30~13:30 昼食 昼休み(学食等にご案内します.昼食代を持参して下さい.)
13:30~15:00 講義と演習 「オイラーの公式とトポロジー」 講師:丹下 基生 助教
15:10~16:20 懇談会・修了セレモニー(修了証をお渡しします.)

年度 平成30年度
日付 2018年8月10日(金)
概要

「整数に関する有名な問題」 金子 元 先生

 整数は、数の中でも最も基本的なものです。特に、0以上の整数は算数において最初に学習されます。しかしながら歴史上の観点から見ると、整数は数千年もの間多くの数学者により研究され続けています。一見すると簡単な対象に見える整数について、まだわかっていないことが多いというと、驚かれるかもしれません。この体験学習では整数に関して、歴史上有名な問題を紹介したいと思います。特に、17世紀のフランスの数学者であるフェルマーが提案した問題についてテーマとして扱い、手計算を通じて整数論の考え方を学びます。
 歴史上、整数論に関して記述のある文献として、ディオファントスが書いた「算術」(3世紀に書かれたといわれています)が重要です。フェルマーはこの本を読み、独自の研究を進めました。彼は自分が得た結果に関する48個ものメモを証明なしで本の余白に書きました。この余白の中には「フェルマーの最終定理」と呼ばれる大変難しい問題もあります(問題が解かれるまでに、約360年もの年月が要されました)。フェルマーの最終定理以外の有名なメモとして、整数の平方数の和に関する問題があります。例えば、5=1×1+2×2のように、5は2つの平方数(1×1と2×2)の和で表すことができます。一方、3は二つの平方数の和で表すことができません。フェルマーは、素数について、平方数の和で表すことができるための条件を見つけました。本講演では、この条件について考察をします。
 平方数の和に関する上記の問題を解くためには、整数に関する割り算の余りが重要な役割を果たします。整数に関する割り算の余りは、小学生の時に習ったと思います。体験学習では、整数で割った余りを通じて、剰余環と呼ばれるものを紹介します。剰余環という言葉は難しそうに聞こえるかもしれませんが、本質的には整数を割った余りを記述したものです。この概念は、現代数学においても重要です。
 また、体験学習では上記以外にも様々な有名な問題を紹介したいと思います。整数は身近で扱われているにもかかわらず、未知の部分も多く、魅力的なものです。さらに整数論で学ぶ技法は、整数以外の対象への応用も持ちます。例えば、整数で割った余りについては、暗号理論など情報理論への応用があることが知られています。


プログラム
8月10日(金)第1エリア1E401
9:30     受付開始
10:00~11:30 講義と演習  「整数に関する有名な問題」  講師: 金子 元 助教
11:30~13:30 昼食 昼休み
13:30~15:00 講義と演習  「整数に関する有名な問題」  講師: 金子 元 助教
15:10~16:20 懇談会・修了セレモニー

年度 平成29年度
日付 2017年8月7日(月)
概要

「無限を数える」 竹内耕太 先生

数学の一番の基本は数を数えるということかもしれません。例えば小学校で初めて足し算をならったとき、かごの中に2つのりんご、箱の中に3つのみかんが入っている図を見て、全部で何個になるか「数えた」のではないでしょうか。
 ではもし箱の中に無限個のモノが入っていたら、それを数えるということはいったいどういうことだと考えたらいいのでしょうか?無限個のモノが2グループあったとき、どちらのほうが沢山あるか決めることは出来るのでしょうか?
 この問題は19世紀後半から20世紀初頭にかけて活躍した数学者ゲオルグ・カントールが考えた集合論と深いかかわりがあります。集合論は、数学に出てくる数や図形といったものがもつ「大きさ」「計算規則」「形」といった様々な属性を忘れて、それらを単なる点や点の集まりだと捉えてその性質を調べる理論です。例えばりんごとみかんの例では、「りんご or みかん」「箱 or かご」ということを無視して個数を数えているのです。
 有限の世界では「モノの数」は普段の日常のイメージ通りの法則に従っていますが、無限の世界を扱うようになると途端にとても不思議で面白い現象が沢山みつかります。以下のクイズを考えてみてください。

  1. 二本の実数の数直線I、Jを想像してください。Iから整数点を、Jから有理数点を取り除きます。その後、それぞれ一方から取り除いた点を他方の数直線に開いた穴に適当に一つずつはめ込みます。点を過不足無く使い、数直線I,Jが元通り復元されるようなはめ込み方を考えてください。
  2. 次のような操作を見つけてください:円周Sを二つの集合A,Bに分割し、Aから点を100万個取り除きます。点が取り除かれたA,Bを形を保ったまま適当に動かして(平行移動、回転など)組み合わせるともとの円周Sが復元されます。
  3. xy平面の原点, (1,0), (1,1), (0,1)を頂点に持つ正方形Aを考えます。Aの内部の点(a,b)でa,bがともに有理数の点は穴が開いているとします。今、一辺の長さが0.5の正方形の紙Bを考えます。はさみでBから複数の長方形(大きさは様々でよい)を順に切り出しそれらをAの上に適当に貼り、Aの穴が全部隠れて見えなくなるようにしてください。(有限個の長方形では不可能ですが・・・)

この体験学習では、ものを数えるということを一から考え直すことによって無限個の対象を扱う方法に触れ、その不思議を実感してもらいたいと思います。無限を自由に想像できるようになったときあなたの見えている世界はもっと奇妙で豊かなものになるでしょう。


プログラム
8月7日(月)総合研究棟B112
9:30     受付開始
10:00~11:30 講義と演習「無限を数える」 講師:竹内耕太 助教
11:30~13:30 昼食 昼休み(学食等にご案内します.昼食代を持参して下さい.)
13:30~15:00 講義と演習「無限を数える」 講師:竹内耕太 助教
15:10~16:20 懇談会・修了セレモニー(修了証をお渡しします.)


年度 平成28年度
日付 2016年8月12日(金)
概要

「宇宙の形と結び目の不思議」 石井 敦  先生

事前掲載概要:
 結び目理論とよばれる数学の理論があります。出かける前に靴ひもを結んだり、イヤホンのひもを結んで保管したり、ダンボールや新聞を縛って古紙回収に出したり、日常では様々な場面で結び目が現れます。

そんな日常にあふれた結び目は、数学で研究されています。これまでに学んできた数学からは、結び目がどうして数学と関係するのか、想像できないかもしれません。
一見、複雑に見える結び目でも、ほどけていることがあります。(ひもの両端を強く引っ張ると、ほどける結び目を作ったことはありませんか?)止め結びは、ひもで輪を作り、その輪の中にひもの片端を通すことで得られる結び目です。文章で書くと難しく感じますが、みなさん一度は作ったことがある簡単な結び目です。止め結びは、ひもの両端をどんなに強く引っ張ってもほどけません。
二つの結び目が与えられたとき、その二つの結び目が同じ結び目かどうか、どうやって判定したらいいでしょう?
ほどこうと1時間頑張って、ほどけなかったからと言って、本当にほどけない結び目でしょうか?もしかしたら、もう1時間頑張ったら、ほどけるかもしれません。でも本当に、ほどけない結び目だったら何時間頑張ってもほどけません。
数学では、結び目を理論的に扱うことができ、この無限に時間の掛かってしまう問題を回避することができます。結び目理論では代数、幾何、解析、何でも使います。様々な切り口からの研究が結び目理論を豊かにしています。
結ぶという現象のあるところ、結び目理論があります。
宇宙の形が結び目によって表されるということは驚きでしょうか?最近は、DNAやたんぱく質の性質と結び目との関係が研究されています。作用素環論という全く別の理論から結び目の不変量を構成したジョーンズはフィールズ賞を受賞しました。
今回の体験学習では、結び目理論の初歩に触れることで、高校までの数学からは想像の難しい、受験数学から解き放たれた自由な数学を体験することができればと思います。
プログラム
9:30 受付開始
10:00~11:30 講義と演習
11:30~13:00 昼食・昼休み (班ごとにお弁当を食べました。)
13:00~14:30  講義と演習
14:40~15:50 懇談会・修了セレモニー(修了証をお渡ししました。)
16:00~17:00 筑波大学中央図書館見学・学内散策
 
体験学習当日の様子: 参加者達はまず受付で一本の紐と,結び目の絵が描かれた紙を配布され,同じ結び目が描かれている席を自分で探すところから始まりました. 今回の体験授業の内容は結び目理論の入門講義です.数学でいう結び目とは,一本の紐を絡ませて両端をつなげたもので,ぐねぐねと変形させて同じ形になるものは全て同じ結び目とみなします. 

午前中の内容は配布された紐を指定された形に変形してみたり,絵を描いて考えたりと,実際に手を動かして考える課題が与えられました.生徒達は中学校や高校では習わない「トポロジー」の考え方に苦戦しながらも,グループで相談して問題を解こうと奮闘していました.

午後は多項式不変量を用いて結び目を区別する内容に入りました.ある2つの結び目が同じ結び目であることを示すには実際に変形できることを確かめればいいわけですが,異なる結び目で あることを示すには,「いくら頑張っても変形できない」というだけでは不十分です.そこで今回は結び目をあるルールに従って多項式で表し,その多項式を比べることで異なる結び目かどうかを判定しました.見たこともない数式に最初は皆さん面食らっている様子でしたが,TAの方を含め,周りと相談して取り組むことで解決できていました.

普段学校で習うような数学とは一味違う数学に触れ,数学とはいかに自由で楽しいものなのかを実感できる体験学習だったのではないかと思います.