はじめに ~ 数学専攻長より ~

数学専攻長 秋山 茂樹


 数学を勉強する学生は最初その厳密性と根本まで掘り下げる態度に戸惑うことが多いのです。実際、数学を習得する過程は新しい言語を学習するのと似ており、さらに「文法」や「語法」で少しも間違えることが許されない。その意味で厳しい訓練が必要です。これはなぜでしょう。

矛盾するようですが数学の本質はその自由性にあります。数学では何を考えるか制約がなく、定義を与え論理的導出を行えばなんらかの結果にいたります。外枠がない以上、整合性を保つには論理的構成を厳密に行っておかないといけません。そうしないとすぐに矛盾して意味がなくなってしまいます。これが厳しいと感じる理由です。固定した外枠がない事は数学を他の学問と峻別する一つの要素です。

この訓練の結果、あなたには外枠を築く基本的技術と能力が与えられます。厳密性は初め大切ですが、より重要なのはそのあとの「自由」の取り扱い方にあります。ここからはあなたの自由な世界。複数の道があなたの前にあり、自分で選択するのです。最初、だれしも既存の結果の模倣から出発するでしょう。でも、ずっとそれだけでは人生はつまらない。あなたの自由を十分に活用してください。数学専攻は、創造的で自由に考えられる人材を世に送り出すためにあるのです。数学の教員はその手伝いをするために存在しています。複数の数学者と会話をするとそれぞれが大きく異なる世界観を持っていることが分かるでしょう。

新しい定義は数学の命の源です。そのような定義、概念は数学の内的発展から、他分野から、様々な実験から、はたまた純粋な思索からも生じます。何を考えてもよいといっても、すべて生き残るわけではありません。定義は重要ですが、どんな定義がよいものかあなたが判断しなくてはなりません。歴史的価値のある結果は過去の成果に裏打ちされており、大事なのは歴史をみる世界観と数学的な美的センスです。

数学専攻で集中して、また楽しんで、あなたの世界観と美的センスを戦わせてください。数学専攻の教員一同、皆さんを応援したいと思います。