福島竜輝(解析)

広報委員会から:このコラム、「教員インタビュー」となっておりますが、今回は福島竜輝先生に自由に語っていただきます。福島節---ご堪能ください。

 

2020年4月から筑波大学に来ました.よろしくお願いします.専門分野の紹介と,現代数学の学び方に関して思うことを,主に高校生や新入生を念頭に置いてお話しします.

1. 研究について

確率論を専門にしています.高校で学ぶ数学の確率といえば有限試行を考えて「〜となる確率を求めよ」という問題が典型的で,結局「〜となるのか,ならないのか」にはっきり白黒がつかず,数学の他の分野とは異質な感じを持つかも知れません.現代数学における確率論の一つの特徴は無限試行を主に考えることです.実は無限試行に対しては,さまざまな仮定の下で0-1法則と呼ばれるものが成り立って,多くの事象の確率は0か1であることが証明できます.これは微視的にはランダムな現象でも数多く集まると決定論的な(=白黒のはっきりつく)法則が現れることの数学的な表現であり,そのような現象を厳密に裏付ける理論として,確率論は現代数学の一分野となっています.

このような現象は,意外に身近なところで起こっています.例えばたくさんの水の分子が,それぞれはランダムに動いているとしても,例えば温めれば必ず100℃で沸騰し,冷やせば必ず0℃で凍るなどの法則は上に述べたことの例と考えられます.水の分子がランダムに動いていると考えてよいのかは,それはそれで大きな問題ですが,ともかくそういう単純化の下では確率論はいわゆる臨界現象の理解にそれなりに貢献してきました(物理では統計物理学と呼ばれる分野に関係します).

純粋数学的な面に戻ると,無限試行を数学的に定式化することは簡単ではなく,実際かなり難しい問題であると言えます.確率と面積・体積の類似を使って行うのですが,1年次で学ぶ面積・体積の理解では不可能で,3年次で学ぶLebesgue積分の枠組みで初めて定式化ができます.そういう意味では面白さが分かるのが遅い分野と言えますが,逆にLebesgue積分を面白いと思ったら,高校でのパズル的・組み合わせ論的な問題が苦手であっても,現代数学としての確率論には適性があるかも知れません.1年次で関連することを敢えて挙げるとすれば,無限和や無限積の微妙な収束判定が好きな人は向いていると思います.

私自身は確率論の中でも不均質な媒質における物理モデルに関係するような研究を主に行っていますが,これについては少し専門的になるので,そのうち個人のwebページに詳しい紹介を書きます.

2. 現代数学の学び方について

学務委員の増岡先生から学生さん達に向けて数学の学び方について何か書くように頼まれたので,今から振り返って学生の頃の自分にアドバイスをするつもりで,思いつくままに書いてみます(万人向けではないかも知れません).

一つ目は「理解を焦らないこと」です.数学は初めて学んだ時は難しいように思っても,時間が経てば分かることはあって,しかもその間に特別な努力をしたかどうかには関係なく分かることもよくあります.格好つけた言い方をすれば,人類が長い時間をかけて作り上げた理論を理解するにはそれなりの時間がかかる,ということかも知れません.でももっと身近な,大人になったらコーヒーの味が分かるようになるといった現象とも似ているような気がします(ときどき少しだけ舐めて「まだ苦い」とか言っていないと分かるようにならないところも含めて).分からないときには,少しの間なら諦めても構いません.ただし何が分からなかったかを憶えておいて,諦めたままにはしないことが大切です.

二つ目は「易し過ぎて分からないことがある」です.現代数学を学び始めると,初めにその形式に圧倒される人は少なくないようです.しかし論理を重視してやたらと形式張った記述をするのは,実は誰にでも平等に分かるようにするためです.(厳密な記述といえばブルバキが有名ですが,数学者でもあり評論家でもあった森毅は「ブルバキが行ったのは数学の大衆化」と言っていて,私もその通りだと思います.)ただこの“誰にでも”は少し徹底され過ぎていて,筑波大学の入試を突破できる力を持った皆さんにとっては,余計なお節介のレベルに達しているところもあります.そういうときに「易し過ぎて分からない」ということが起こります.数学を学んでいてよく分からなくなったら,「実はとても簡単なことなのでは?」と思って見直してみると,あっさり分かることがあるものです.自分の力を信じて,形式に振り回されないようにしてください.

三つ目は「分かったことは出力してみる」です.難しいことが分かったときの喜びは何ものにも替えがたいもので,それこそが数学の原動力です.自分が苦労して理解できたと思ったことは,ぜひ積極的に友人や,場合によっては教員にでも,説明してみましょう(された方も嫌がらずに聞いてあげましょう).友人の理解の助けになることもあるかも知れませんし,一方で思いもしなかった見落としに気づくこともあるかも知れません.説明しようと準備している時点で,自分の理解の矛盾に気づくこともよくあります.ちゃんと紙に書いたり,言葉に出してみないと気づかないことは案外多いものです.どこにも書いていないような分かり方だったら,周辺のことと合わせてまとめたノートを作っておくとさらに良いです.ちなみに少し高度な話をすると,数学の理論が「完全に分かった」と言える一つの指標は,何も見ないで教科書が書ける(=出力が完璧にできる)ことです.大学院まで進学するつもりなら,少なくとも自分の専門とする分野については,そのレベルの理解を目指してみてはどうでしょう?