解析学分野

 解析学

解析学とは、一言で言えば、微積分という操作に対する関数の性質を研究する数学の一大領域です。微積分の考え方は日常生活に現れる直感的な概念の厳密な定式化に既に用いられています。例えば、自由落下する物体のような変化し続ける速度の定式化には微小量を扱う微分が必要です。円や球といった真っ直ぐではない図形の面積・体積の定義には微小量の和としての積分の考え方が用いられます。さらに場所によって連続的に変化する物質の密度や流体の流れなどを扱う際にも、微小量の間の関係式として微積分が現れます。このように、ものを構成要素に細分化して分析し、必要に応じて全体の性質の解析に還元する、という近代科学の精神は、解析学によってその理論的裏付けがなされているのです。そして、その発展に、解析学は数多くのモデルや手法を提供し、大きな成功を収めてきました。


今後も進展し続ける解析学を基礎から学び、深く高度な研究に生かせるよう、筑波大学数学類では効率的なカリキュラムが組まれています。1年次から4年次までを通して、微積分学、ベクトル解析、微分方程式論、関数論、ルベーグ積分論、確率論、フーリエ解析、関数解析、といった解析学において共通で必要となる技術を習得しながら、3年次後期から4年次にかけて指導教員の下、専門のセミナーを行います。このセミナーではより高度な数学理論と緻密な議論展開の手法を身につけることができるでしょう。筑波大学の解析系は大きく以下のようないくつかのコースに分類することができます。


 偏微分方程式論 (筧知之, 木下保, 竹内有哉)

時々刻々と変化する量の変化率の間の関係を与える「偏微分方程式」は、科学・技術のあらゆる局面に現れ、その数学的研究は解析学の中でも大きな割合を占めています。筑波大学数学専攻の解析系では偏微分方程式に関わる教員が充実しており、学類から大学院に至るまで講義、演習、セミナーを通じ、その具体例と理論の両面に触れる機会に溢れています。

大学院では双曲型方程式、シュレーディンガー方程式が主な研究対象であり、変数係数や多様体の場合など、空間の曲がり方や形状を変化させたときの初期値問題の解の適切性やスペクトル・散乱理論などが、関数解析やフーリエ解析あるいは超局所解析の手法を用いて研究されています。逆に散乱理論を用いて、空間の形状を捉える研究もなされています。さらに近年では数値解析、逆問題、ウェーブレットといった現実への応用に即した問題の研究にも力が入れられ、多くの新しい成果が得られています。筑波大学の偏微分方程式論グループでは幅広い研究テーマから選択して研究できる環境が整っています。

 代数解析学 (竹山美宏, 桑原敏郎)

代数解析学は、解析学に現れる様々な対象の代数的構造を研究する分野です。 線形偏微分方程式の理論に対して、 D-加群や佐藤超関数などの代数的概念を導入して得られた研究成果は、 広く知られています。

代数解析学は、数学の他分野とも関連があります。たとえば、 シンプレクティック多様体上の複素解析的構造は、 無限次元リー代数や頂点作用素代数と深い関係を持ち、 その研究は代数学の重要な分野である表現論に新しい知見を提供しています。

さらに、代数解析学で用いられる手法は、 数理物理学における可解模型の研究にも応用されています。 可解模型の研究では、非可換代数の表現論や、 ガウスの超幾何関数などの特殊関数論が重要な役割を果たします。 ここで使われる解析手法は数論や確率論などにも応用があり、 興味深い研究成果が得られています。


 確率論 (濱名裕治, 福島竜輝, 松浦浩平)

確率論はサイコロを振ったり、壺から色のついたボールを取り出したりして場合の数を数えるだけのものではありません。現代数学を支える大きな柱のうちの一つで、自然現象をその研究対象としています。

筑波大学数学類では、確率論に関連する講義・演習が数多く開講されています。確率論の基本概念やよく使われる確率分布等について学ぶと同時に、現代確率論の基礎となる測度論についても勉強します。その後、大数の法則や中心極限定理のように、日常生活では無意識に使われている確率論の基本定理についても学びます。また3年次の後半から4年次にかけては、セミナーや卒業研究で自分が興味を持っている分野について知識を深めます。

大学院では、物体の運動を記述する方程式にランダムな揺らぎが加わった確率微分方程式、ランダムに不純物を含んだ空間の中での物体のランダムな運動、ランダムに運動する物体のエネルギーを表すディリクレ形式など、現代確率論が研究対象としている偶然性を伴う自然現象の解析を勉強・研究することができます。

 

数学専攻には、こうした研究を行っている教員が揃っており、各種数学特別セミナー、講義、研究集会などを通じて様々な数学を学ぶことが出来ます。前期課程修了時には日本数学会などの一般講演を目標に、後期課程修了時には、国内外での研究集会における研究発表および国際的な学会誌や学術誌に掲載されるレベルの欧文の論文発表を具体的な目標にしています。数学専攻では、次世代の数学を担い、また数学を通して社会に貢献する人材の育成に努めています。