梁松 (解析)



研究内容について

「確率論です。この数年間で考えているのは、数学的なモデルを使って、どうしてブラウン運動のような現象が起こるのかを説明するという問題です。このモデルは、初期条件はランダムだけど、ダイナミクスにはランダム性がないようなものです。こういう研究はあまりないと思います。問題自身は30年前くらいからありますけど、計算が大変なので、あまり考えられてないですね。

「ブラウン運動は、もともと
1820年代に生物学者が見つけたものです。水にいれた花粉の破片は不規則に動く。それが何故なのか。当初は「花粉に命があるからだ」と言われたんだけど、そうではなくて、水の分子がぶつかって動かしていると現在では考えられています。

水の分子がランダムに動いていれば、大数の法則などいろいろあって、ブラウン運動やガウス分布が出てくることはよく知られています。だけど、本当に水の分子が独立に動いているのかと言われれば、そうではないはずですよね。いったんぶつかって、あるいは相互作用して、またぶつかるかもしれないし。そうすると、過去とのランダム性もなければ、水分子の間の独立性もない。こういう非独立性を考慮に入れても、ちゃんとブラウン運動が出てきます。」


確率論に興味をもったきっかけ

「小学校低学年の頃、当時はテレビでクイズ番組が流行っていて、あるクイズ番組で次のような問題が出ました。今でも覚えているんですけど、「ある家庭では、男でも女でもどっちでもいいんですが、どっちかの性別の子供が産まれてくるまで、ずっと子供を産み続ける。このとき、平均的に男の子の数と女の子の数はどうなるでしょうか」。

正解は「同じ」なんですけど、その理由を司会者に聞かれた出演者は「説明しようと思うと確率論を使わないといけないので、やめておきます」と答えてました。これは私が初めて『確率論』という言葉を聞いた場面で、問題と答えは誰でも分かるんだけれど、実際の計算はちゃんと知識がないとダメだ、っていうところが、面白いなあと思って。説明は難しいけど答えはきれいでしょ、過程は全然分からないけど結果はみんなが知ってる結果でしょ、みたいな感じ。」




研究の楽しさと大変さ

「言い方が悪いかもしれないですけど、ある意味では、研究って自己満足するものじゃないですか。苦労したからこそ、自己満足できる。だから、苦労した点と、一番嬉しい点って、実は同じところなんですよね。直感的にそうであるはずだと分かってても、なかなか証明できなかったりするんだけど、だからこそ証明できたときに嬉しい。

「1
ケ月、2ケ月苦労することもありますね。子供が産まれてからは強制的に毎日切り換えてるもんだから、ずーっと考えることはあるんですが、少なくとも一日数時間は必ず忘れることになってます()

「考えるべき問題が自然に見つかるというわけではないですね。私もこれが研究のなかで一番難しいことだと思うんですけど、幸い、私がいま考えている問題はいろんなバージョンがあり得るから、しばらくはそういう苦労をしなくて済んでます。」


女子学生に向けて

「中国でも数学を勉強する女子は少なかったですね。数十人のクラスのなかに女子は数人とか・・・。でもね、なぜか不思議なことに、私の大学の同級生で、結局ドクターまで取って大学に残ったのは、ほとんど全員女子です()。男性は逆に、お金を稼ぐとか、いろんな責任があるので、学部で卒業してそのまま就職しちゃう。女の子は逆に自分のやりたいことをやれたと言うか・・・結構不思議ですね。

「私は、性格の問題かもしれないですけど、まわりはあんまり気にしなかったですね。自分は何が欲しいか、自分がどうなりたいかって考えるだけでいいんじゃないかな。一生のスケールでも言えることですし、数年間のことに関しても同じですよね。ちょっと偉そうに言ってるんですけど・・・

「私は専業主婦になりたいって人に、無理矢理、数学者になりなさいと言わなくても良いと思うんです。だけど、数学が好きなのに、ただ単にまわりでそういう人が少ないから、あるいは変な目で見られるから、って言うんだったら、迷わないで、自分のやりたいことをやった方が良いとは思いますね。やりたいようにやれば・・・それが真の自由じゃないでしょうか。そう思います。」



(聞き手:佐垣大輔・竹山美宏)