代数学分野

 古来より「方程式を解く」ことは人間にとって最も基本的な問題のひとつでした。皆さんも中学・高校で1次方程式や2次方程式の解の公式(解き方)を習ったことと思います。それでは3次以上の方程式には解の公式はあるのでしょうか?実は3次方程式と4次方程式に対しても(とても複雑ですが)解の公式があることが知られています。ところが5次以上になると解の公式は存在しなくなります。これは19世紀前半にノルウェーの数学者アーベル (1802 ~ 1829) によって証明されました。

 その後、ガロア (1811 ~ 1832) という数学者が「群(ぐん)」というものを発見し、それを使って方程式の解の公式の存在・非存在を調べました。これが近代代数学の起源です。ちなみに、ガロアが証明した定理は「方程式が代数的に解ける(≒解の公式が存在する)ための必要十分条件は、その方程式のガロア群が可解であること」というとても難解なもので、現在では大学の3年次か4年次に学びます。ガロアは20歳の若さで亡くなっていますので、このことからも彼がいかに天才だったかが分かります。

 現代の代数学では、ガロアが発見した群をはじめ、様々な代数的構造(代数系)が研究されています。これらのうち最も基本的なものは群、環(かん)、体(たい)の3つです。大雑把に説明すると、
 体・・・有理数どうしを足し算、引き算、掛け算、割り算をしても有理数です。同様に、実数どうしを足し算、引き算、掛け算、割り算をしても実数。つまり、有理数全体の集合や実数全体の集合は、「足し算」と「掛け算」、および、それらの逆演算である「引き算」と「割り算」で閉じています。このような集合を一般に体といいます。他の例としては、a+b√2 (a, b は有理数) という形をした数全体も、上の4つの演算で閉じており、体になります。
 環・・・整数全体の集合は、「足し算・引き算」と「掛け算」の3つの演算で閉じています。(整数全体は割り算では閉じていないことに注意。)このような集合を一般に環といいます。他の例としては、a+b√3 (a, b は整数) という形をした数全体も、上の3つの演算で閉じており、環になります。
 群・・・0以外の実数全体の集合は、「掛け算・割り算」の2つの演算で閉じています。また、整数全体の集合は、「足し算・引き算」で閉じています。このようにある演算とその逆演算で閉じている集合を一般に群といいます。

 筑波大学数学類では、1年次にすべての数学の基礎として線形代数学(行列とベクトルの一般理論)を学んだ後、2年次から3年次にかけて群論と環論を、3年次から4年次にかけて体論を学びます。当数学類のカリキュラムの特徴は、2年次に「代数入門」という授業を設けて、抽象的でわかりにくいところのある群論や環論に、具体例を通して、ゆっくりとなじめるように工夫してある点です。3年次では、群論と環論のより一般的な理論を学ぶと同時に、体論の基礎を学びます。そして、4年次に、これらの知識を総合して、最初に述べたガロアの理論を学ぶようになっています。

 数学類4年次および大学院数学専攻では、より複雑な代数系についての講義やセミナーが開講されています。例えば、群であると同時に可微分多様体や代数多様体といった解析的・幾何的な構造も兼ね備えたリー群や代数群、それらをベクトル空間で“近似”することで得られたリー環(リー代数)、別の環や体が作用している環である多元環、統計熱力学を背景として生まれた量子群(群ではなく多元環の一種)とそれの一般化であるホップ代数、物理学と有限群論(有限個の要素を持つ群の理論)というまったく異なる2つの背景をもつ頂点作用素代数などについての講義やセミナーが行われています。特に、リー環論と多元環論は、現代数学では群・環・体に次いで基本的なものであるため、数学類の4年次で学べるようになっています。また、これらの代数系のベクトル空間への作用に関する理論(表現論)や、代数・解析・幾何の様々な手法を駆使する整数論、方程式で定義された図形を代数系や幾何を用いて研究する代数幾何の講義やセミナーも開講されています。

 数学専攻には、こうした研究を行っている教員が揃っており、各種数学特別セミナー、講義、研究集会などを通じて様々な数学を学ぶことが出来ます。前期課程修了時には日本数学会などの一般講演を目標に、後期課程修了時には、国内外での研究集会における研究発表および国際的な学会誌や学術誌に掲載されるレベルの欧文の論文発表を具体的な目標にしています。数学専攻では、次世代の数学を担い、また数学を通して社会に貢献する人材の育成に努めています。